カテーテル治療関連
目次
体重2.5kg未満の動脈管開存症に対する
経皮的動脈管閉鎖セット使用の適正使用に関する手引き
令和元年9月作成
令和2年12月16日改定
令和3年11月30日改定
主に低出生体重児の動脈管開存症に対する経カテーテル閉鎖術に使用されるAMPLATZER ピッコロオクルーダーが承認・保険収載されるにあたり、手技時の体重が2.5kg未満の患者における経皮的動脈管閉鎖術の適正な使用のために、実施施設および術者の基準と、適応について手引きを作成した。本手引きは、日本先天性心疾患インターベンション学会(旧日本Pediatric Interventional Cardiology学会)が中心になり、日本小児循環器学会、日本新生児成育医学会の承認を得て作成するものである。
注:本手引きは施行時の体重が2.5kg未満の例に適応される。例えば出生時体重が2.5kg以上であっても、施行時の体重が2.5kg未満であれば本手引きの対象になる。一方、低出生体重児(出生時体重2.5kg未満)でも、施行時体重が2.5kgを超えていれば本手引きの対象にならない。
記
販売名:AMPLATZER ピッコロオクルーダー
製造販売会社:アボットメディカルジャパン株式会社
承認番号:30100BZX00140000
使用目的:以下の全てを満たす動脈管開存症に適用し、経皮的に動脈管を閉鎖するために使用する。
- 動脈管の直径が4mm以下であること。
- 動脈管の長さが3mm以上であること。
- 体重が700g以上であること。
承認条件:
- 動脈管開存症の治療に関連する十分な知識及び経験を有する医師が、本品の使用方法に関する技能や手技に伴う合併症等の知識を十分に習得した上で、治療に係る体制が整った医療機関において使用目的及び使用方法を遵守して本品を用いるよう、関連学会との協力により作成された適正使用指針の周知、講習の実施等、必要な措置を講ずること。
- 製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、本品を使用する全症例を対象に使用成績調査を実施し、長期予後について、経年解析結果を医薬品医療機器総合機構宛て報告するとともに、必要に応じ適切な措置を講ずること。
体重2.5kg未満の動脈管開存症に対するAMPLATZER ピッコロオクルーダーの適正使用に関する手引き作成委員会
- 委員長
- 杉山 央
- 内科系委員
- 大月審一、矢崎 諭、小林俊樹、富田 英
- 外科系委員
- 坂本喜三郎、平田康隆
- 新生児科系委員
- 与田仁志(日本新生児成育医学会)
関連学会 (本手引きの承認学会)
日本先天性心疾患インターベンション学会
日本小児循環器学会
日本新生児成育医学会
1.治療の位置づけ
低出生体重児では、動脈管が機能的閉鎖せずに動脈管開存症として心不全、呼吸不全になり、その結果として体重増加不良や壊死性腸炎、敗血症などのより重篤な合併症を引き起こす可能性が少なくない。本疾患の第一選択はインドメタシン等による薬物療法による閉鎖であるが、薬剤抵抗性で動脈管が閉鎖しない場合や、また薬物療法にともなう急性腎不全や壊死性腸炎などの合併症の報告も少なくない。薬剤抵抗性や薬物療法が行えない場合は従来、側開胸による動脈管結紮術やクリッピング術が行われている。外科的治療の治療成績は良好であるものの出血、肺損傷、感染、乳び胸や反回神経麻痺等の合併症が報告されている。一方、カテーテル治療による動脈管開存症に対する閉鎖術は、1994年にFlipperコイルが承認され、小さな動脈管を対象として、わが国でも徐々に一般的な治療法となって行った。2009年にPDA閉鎖セット(AMPLATZER Duct Occluder)の導入と同時に日本先天性心疾患インターベンション学会では、PDA閉鎖セット(AMPLATZER Duct Occluder)の使用に関して『経皮的動脈管閉鎖セット使用に関する施設基準と教育プログラム』規約により施設基準および術者基準を策定し、適宜改訂を行いながら安全な治療の普及に努めてきた。これらを遵守しながら、乳児期早期や低体重児以外のほとんどの例でカテーテル閉鎖術が行われるようになった。さらに2019年にPDA閉鎖セットII(AMPLATZER Duct Occluder II)が導入され体重2.5kgまでの乳児が治療の対象になるなど、経験を蓄積し安全に留意しながら、体重が少ない患者さんまで段階的に治療適応が広がった。
AMPLATZER ピッコロオクルーダーは、低体重児の動脈管開存症に対して開発されたデバイスであり、インドメタシン、イブプロフェンによる効果が得られない例は主に外科的治療が選択されてきた体重2.5kg未満の低体重児に対する治療選択肢のひとつになることが期待されている。AMPLATZERピッコロオクルーダーを体重2.5kg未満の患者へ使用する場合には、本手引きの基準を満たす施設及び術者により、治療の適切性が慎重に検討・判断される必要がある。また、本品を用いた手技施行にあたっては、本手引きに記載の使用方法及び注意事項に従って行うことが求められる。
なおAMPLATZERピッコロオクルーダーを体重2.5kg以上の患者に使用する際は、『経皮的動脈管閉鎖セット使用に関する施設基準と教育プログラム』規約を順守することが求められる。
海外におけるAMPLATZER ピッコロオクルーダーの許認可状況については、2011年1月に欧州でCEマークを取得し、2019年1月に米国でPMA承認された。なお、海外において手技時体重2.5kg未満の低体重児の動脈管開存症に対する経皮的カテーテル塞栓術として許認可を取得しているのは米国のみである(2019年7月現在)。米国におけるAMPLATZER ピッコロオクルーダーの使用状況について、IDE試験の登録が完了後に継続使用試験が行われ(2018年3月に第一症例が登録され、2019年7月の時点でフォローアップ継続中)、150症例が登録された。2019年2月の時点での6ヶ月時成績では、留置成功率は96.7%(145/150例)、TTEに基づく動脈管の有効閉鎖率が98.1%(52/53例)、機器又は手技との関連性がある重篤な有害事象の発現率は4.0%(6/150例)であった。
2.施設および術者基準
手技時の体重が2.5kg未満の患者における経皮的動脈管閉鎖術の施設および術者の限定について
手技時の体重が2.5kg未満の患者に対してAMPLATZER ピッコロオクルーダーを使用するには、『経皮的動脈管閉鎖セット使用に関する施設基準と教育プログラム』で認定された施設基準2-1.・術者基準2-2.であり、さらに施設基準2-3.および術者基準2-4.を満たさなくてはならない。
2-1. 施設基準(経皮的動脈管閉鎖セット使用に関する施設基準と教育プログラム)
PDA閉鎖セットを使用する施設は、以下の全てを満たす必要がある。施設は小児循環器修練施設(群)もしくはCVIT認定の研修施設または研修関連施設であること。
- 1)経皮的動脈管開存閉鎖術施行チーム(科)による前年の先天性心疾患もしくは構造的心疾患に対するカテーテルインターベンションの年間症例数が2年間で80例以上の施設。
- 2)心臓血管外科の医師が常勤しており、先天性心疾患の開心術年間施行例が2年間で80症例以上、または先天性心疾患40症例以上(うち短絡疾患5例以上)を含む開心術の総症例が160例以上であり、小児、成人問わず緊急の開心術に対応できる医師、設備を有していること。
- 3)心臓カテーテル室で麻酔科の管理の下に全身麻酔が可能であること。
2-2. 術者基準(経皮的動脈管閉鎖セット使用に関する施設基準と教育プログラム)
小児循環器専門医、CVIT認定医もしくは専門医もしくは指導医であること。また、前々年及び前年の2か年間の常勤施設における先天性心疾患もしくは構造的心疾患に対する直接施行したカテーテインターベンション数(主術者又は指導的立場での第2術者)が2年間で40症例以上であること。 動脈管開存閉鎖術数(主術者又は指導的立場での第2術者)が5例(ADO Iによる閉鎖術3例を含む)以上であること。但し、ADO Iは教育担当医師の認定施設で助手としての経験を1例まで算入できる。
但し、本規約における常勤とは継続した勤務実績を有する勤務形態を指し、兼務の場合は継続した勤務実績について所属長の証明が得られる場合に限定して兼務先を常勤と認める。
2-3. 施設基準(手技時の体重が2.5kg未満の患者における経皮的動脈管閉鎖術の施設)
- 1)周産期センターの併設された施設であること(総合周産期センター、地域周産期センター、特定機能周産期センター)
- 2)経皮的動脈管閉鎖術の教育担当医師が常勤している施設であること。
- 3)小児心臓血管外科医が常勤する施設であり、緊急時の十分な外科的対応ができる体制が整っている施設であること。過去5年間で体重2.5kg未満を含む動脈管結紮術を3例以上経験していること。
- 4)小児循環器科医、新生児科医、小児心臓血管外科医および関連する多職種から構成されるチーム(Infant Heart Team)があること。
2-4. 術者基準(手技時の体重が2.5kg未満の患者における経皮的動脈管閉鎖術の術者の限定)
- 1)小児循環器専門医であること。
- 2)経皮的動脈管閉鎖術の教育担当医師であること。
- 3)学会・企業が主催する講習を受けていること。
2-5. 申請方法
- 1)押印した申請書の原本はJCIC事務局に送付するとともにJCIC教育担当理事(92sugiyama@gmail.com)とJCIC事務局に、電子メールで送信する。
- 2)新規施設および術者の申請は、JCIC事務局で随時受け付けており、JCIC-CVIT教育委員会で審議する。
3.適正使用基準
3-1. 使用目的
以下の全てを満たす動脈管開存症に適用し、経皮的に動脈管を閉鎖するために使用する。
- 1)手技時に生後3日以上であること
- 2)PDA長が3mm以上あること
- 3)最も細い部分のPDA径が4mm以下であること
- 4)体重が700g以上であること。体重1.0kg未満の患者は原則として外科治療を優先すること。(体重1.0kg 未満の患者は血管が脆弱であり、本品の安全性は十分に検討されていないため)
- 5)Infant Heart Teamは、動脈管の形態や循環動態および全身状態を総合的に評価し、最適な治療法を検討すること。
3-2. 禁忌
- 1)生後3日未満の患者
- 2)大動脈縮窄が認められる患者
- 3)左肺動脈狭窄が認められる患者
- 4)心拍出量が動脈管を介した右左短絡に依存している患者
- 5)留置部位に血栓がある患者、または挿入、留置するための経路となる血管に静脈血栓の徴候がある患者
- 6)心内膜炎、または菌血症を引き起こす感染症を発症している患者
- 7)ニッケルアレルギーのある、又はその可能性が疑われる患者
3-3. 導入期の対象患者の拡大にあたって体重を段階的に下げておこなうこと。
ステップ1:体重2.0kg以上6.0kg未満を3例以上経験(附則)
ステップ1の3例のうち2例までその他のデバイスによる経験を算定できる(ステップ1修了報告書申請日までの過去5年間に経静脈アプローチ施行した例に限る。申請の際にはカテーテルレポートを添付すること)
ステップ2:体重1.0kg以上2.0kg未満を2例以上経験
ステップ3:体重1.0kg未満
但し、デバイスの留置は経静脈アプローチで行い、術中エコーを施行すること。(附則)
ステップの認定は、術者(認定された主術者および第一助手)に対して与える。
ステップ1から2およびステップ2から3に進むには、JCIC教育委員会で症例および手技の適切性の審査をうけて承認されなければならない。
4.使用方法等
4-1. 動脈管の計測とダクトオクルーダーサイズの選択
- 1)標準的な手順で右心カテーテル検査又は術中心エコー検査を実施する
- 2)血管造影又は術中心エコーにより、動脈管の最も細い部分の直径と長さを計測する。
- 3)適切なダクトオクルーダーを選択する。(表1,2参照)
表1 サイズ対応一覧表(体重が2kgを超える患者)
動脈管長さ(mm) | ||||
3~4 | 4.1~6 | 6.1~8 | ||
動脈管 直径 (mm) |
≤2 | 9-PDAP- 03-02-L |
9-PDAP- 03-04-L |
9-PDAP- 03-06-L |
---|---|---|---|---|
2.1~3 | 9-PDAP- 04-02-L |
9-PDAP- 04-04-L |
9-PDAP- 04-06-L |
|
3.1~4 | 9-PDAP- 05-02-L |
9-PDAP- 05-04-L |
9-PDAP- 05-06-L |
表2 サイズ対応一覧表(体重が2kg以下の患者)
動脈管長さ(mm) | |||
3~12 | ≥12.1 | ||
動脈管 直径 (mm) |
≤1.7 | 9-PDAP- 03-02-L |
9-PDAP- 03-04-L |
---|---|---|---|
1.8~3.2 | 9-PDAP- 04-02-L |
9-PDAP- 04-04-L |
|
3.3~4 | 9-PDAP- 05-02-L |
9-PDAP- 05-04-L |
4-2. ダクトオクルーダーの送達及び留置
- 1)デリバリーカテーテルに延長チューブ付止血弁を取り付け、生理食塩水でフラッシュする。
- 2)動脈アプローチ又は静脈アプローチによりガイドワイヤーを進めて動脈管を通過させ、さらにガイドワイヤーを介してデリバリーカテーテルを進める。
※手技時体重2kg以下の患者では動脈損傷のリスクが高いため、静脈(順行性)アプローチで送達すること。 - 3)X 線透視又は術中心エコーによりデリバリーカテーテルの位置を確認する。
- 4)ローダーにセルフシーリング止血弁を取り付け(ローダーアッセンブリ)、生理食塩水でフラッシュする。
- 5)デリバリーワイヤーの近位端をローダーの遠位端から通し、さらにセルフシーリング止血弁を通す。
- 6)ダクトオクルーダーがデリバリーワイヤーに接続されていることを確認する。簡単に離脱できるよう、ダクトオクルーダーを反時計回りに1/8 回転させる。
- 7)ダクトオクルーダー及びローダーアッセンブリを生理食塩水に浸し、ローダー内にダクトオクルーダーを引き込む。
- 8)セルフシーリング止血弁を介してローダー及びダクトオクルーダーを生理食塩水でフラッシュする。
- 9)ガイドワイヤーをデリバリーカテーテルからゆっくり抜去する。システムから空気を除去するため延長チューブ付止血弁を通して血液の逆流を確認し、デリバリーカテーテルを生理食塩水でフラッシュする。
- 10)ローダーを延長チューブ付止血弁及びデリバリーカテーテルに挿入する。デリバリーカテーテルから空気を除去するため吸引及び生理食塩水でフラッシュする。
- 11)デリバリーカテーテル、延長チューブ付止血弁及びローダーアッセンブリをしっかり支え、ダクトオクルーダーがデリバリーカテーテルの先端に到達するまでデリバリーワイヤーを進める。
- 12)デリバリーワイヤーを保持し、デリバリーカテーテルをゆっくりと引き戻して遠位ディスクを展開し、血管壁に合わせる。血管造影又は術中心エコーにより血管壁に適切に配置されたことを確認する。
※手技時体重2kg以下の患者ではダクトオクルーダーが大動脈や肺動脈に干渉するリスクを低減するため、動脈管よりも短いサイズのダクトオクルーダーを選択してダクトオクルーダー全体を動脈管内に留置すること。 - 13)デリバリーワイヤーの張力を維持しながら、デリバリーカテーテルを注意深く引いてウエスト部と近位ディスクを展開する。
- 14)血管造影又は術中心エコーにより、ダクトオクルーダーの位置、安定性、形状(ウエスト部分が動脈管壁に圧着されていること)及び動脈管の閉鎖を確認する。
- 15)ダクトオクルーダーの位置が不適切である場合、デリバリーカテーテルを進めてダクトオクルーダーを回収し、改めて動脈管開口部へ留置する。ダクトオクルーダーの再留置及び回収は 2回まで行う事ができる。
※手技時の体重が2.5kg未満の患者への使用においては、血管の脆弱性及び外科手術への移行を考慮し、留置手技はサイズ変更も含め原則2回までとすること。 - 16)ダクトオクルーダーの位置が適切である場合、デリバリーワイヤーにプラスチックバイスを取付け、反時計回りに回してダクトオクルーダーを離脱する。
- 17)デリバリーワイヤー及びデリバリーカテーテルを抜去する。
5. 実施にあたっての留意点
5-1. インフォームドコンセント
実施にあたっては、事前に、文書によるインフォームドコンセントを得る。インフォームドコンセントにおいては、少なくとも、下記の事項について説明を行う。
- 1)病名・現在の病状・手術が必要な理由
- 2)既存の治療およびその成績
- 3)手術名・手術の方法・麻酔の方法・手術にかかる時間
- 4)手術後に予測される経過
- 5)手術に伴う危険性(出血、穿孔、低血圧、心タンポナーデ、血栓症等)
- 6)手術をしない場合の経過・代替可能な他の治療法
- 7)診療情報の2次利用(学会調査への登録など)
5-2. 術前、術中、術後の留意点
- 1)術中は心拍数、血圧、体温、酸素飽和度をモニターし、心エコーにて動脈管等を観察する。
- 2)術中の抗凝固薬の使用について手技時体重2kg未満の患者においては、ヘパリンのボーラス投与を可能な限り回避すること。ヘパリン加生理食塩水のフラッシュ(2 units/ml)で、カテーテル内の血栓予防が可能。
- 3)手術終了時、術翌日に心エコーにて動脈管等の観察をおこなう。
- 4)術後は、出血、感染などに注意した管理を行う。
6.付帯事項
- 1)市販後調査はJCIC-Registryに登録すること(AMPLATZER ピッコロオクルーダーは体重2.5kg未満に限らず、目標症例数に達するまですべて登録すること)。
- 2)今後の国内外での臨床研究のデータや学会調査の結果などを踏まえて、本適正使用に関する手引きは随時改訂を行うものとする。
7.附則
- 1)4)3-3.について
令和2年12月16日まではステップ1は2.0kg以上4.0kg未満を適用する。
令和2年12月16日から経静脈アプローチで術中エコーの施行を条件とする。
申請書類ダウンロード
必要書類をクリックしてダウンロードしてください。
Piccolo PDA(2.5kg未満) |
術者申請書 |
---|---|
施設申請書 |
ピッコロオクルーダー(2.5Kg未満)術者報告 |
「ピッコロオクルーダーのステップ修了報告書 |
---|